既存事業と新規事業

皆さま、こんにちは、そして、こんばんは。

 

コンサルティングオフィス エル・アール・エー 代表、中小企業診断士の菅野です。

 

さて、2021年6月21日のコラムで「選択と集中」について触れましたが、今日は別の視点で「選択と集中」を考えてみたいと思います。

 

ぜひ、お付き合いください。


現在、「事業再構築補助事業」が進められています。

 

この事業の目的については、公募要領に以下のように書かれています。

 

 「新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。」

 

この目的の文章の中に、「当面の需要や売上の回復が期待し難い」とあります。

 

このことは、一概には言えませんが、当面の間「既存事業の回復は困難である」ことを示しているのだと思います。

 

なので、そのうち回復するだろうという楽観的かつ受け身の姿勢で待つことは、期待し難いのかもしれません。

 

また、長期的には「ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するため」とあります。

 

このことは、近い将来、これまでとは異なる経営環境になることを示しているのだと思います。

 

したがって、変化する経営環境の中に事業機会を見出し、自社の強みを活かせる新たな事業分野へ展開していく必要性を示しているのだと思います。


さて、冒頭で記載させて頂いた「選択と集中」について考えてみたいと思います。

 

事業再構築計画を策定していくと、既存事業をどう位置付けるか、また、新規事業をどう位置付けるかという悩みにぶつかると思います。

 

まず、事業再構築公募要領の28頁にある「審査項目」のうち、2つみてみましょう。


 (2) 事業化点 ④

■補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性等)が高いか。その際、現在の自社の人材、技術・ノウハウ等の強みを活用することや既存事業とのシナジー効果が期待されること等により、効果的な取組となっているか。

 (3) 再構築点 ③

■市場ニーズや自社の強みを踏まえ、「選択と集中」を戦略的に組み合わせ、リソースの最適化を図る取組であるか。


選択と集中、定石的にいえば、儲からないものをやめて、儲かる事業や商品に注力することですよね。

 

でも、だからと言って、即刻、既存事業から撤退するという意味ではないと思うのです。

 

既存事業については、部門別、店舗別、商品別などにさらに細分化して、それぞれ儲かっているか(これまで儲かっていたのか、今後は儲かるのか)どうかを確認し、その上で、必要なものは残し、そうでないものからは撤退するというのも選択肢となります。

 

また、在庫や売掛金の圧縮や遊休資産の処分、収益阻害要因の除去など、財務体質や収益構造を改善できないかという視点で分析しておくことも必要かもしれません。

 

その上で、新規事業を開始するにあたり、今あるリソースは何か、また、新たに必要となるリソースは何かなどを整理し、全体像を組み立てる必要があると思います。

 

また、「コア・コンピタンス(=中核となる能力)」を明確化すると「事業領域」がいくつか見えてくる場合がありますので、その事業領域が、自社活動の中核となる「コア事業」となり得るかどうかを見極めることが大切なんだと思います。

 

そして、コア事業として成り立つと判断したなら、既存事業の位置づけ(縮小または相乗効果による回復など)をどうするか、自社の経営資源をどこにどのように投下するのか、最も効率的なリソースの組み合わせは何か、それによる事業再構築の成果はどの程度かなど、いろんな角度で検討を進めることが大切ではないでしょうか。


さて、話は変わりますが、事業再構築補助事業の審査対応について、気になる「補助対象事業としての適格性」は大切ですが、その部分をクリアできるなら、審査項目に掲げられている「事業化点」や「再構築点」「政策点」を鑑みた事業計画を策定することが大切と感じます。

 

そして、これらの項目のうち、特に「事業化点」については、新規事業を開始する際の「事業計画策定プロセス」がそのまま載っているのではないでしょうか。

 

具体的には、以下のような項目です。


  • 事業化に向けて、競合他社の動向を把握すること等を通じて市場ニーズを考慮する。
  • ユーザー、マーケット及び市場規模を明確にする。
  • 市場ニーズの有無を検証する。
  • 製品やサービスの価格・性能などに優位性や収益性がある。
  • 事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当である。
  • 補助事業の課題が明確になっており、その課題の解決方法が明確かつ妥当である。
  • 費用対効果(補助金の投入額に対する付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性等)が高い。
  • 現在の自社の人材、技術・ノウハウ等の強みを活用する。
  • 既存事業とのシナジー効果が期待される。
  • 市場ニーズや自社の強みを踏まえ、選択と集中を戦略的に組み合わせ、リソースの最適化を図る。

さて、業種業態、事業規模にもよりますが、自社の今後の事業展開を図るうえで、既存事業をどう位置付け、新規事業をどう位置付けるのかは、戦略面の検討だと思います。

 

平常時であれば、時代の変化に対応するため近い将来の事業の柱を育てて・・・と言いたいところですが、新型コロナウィルスは、ゆとりのない待ったなしの状況に私たちを追い込んでいます。

 

現在、飲食店が「テイクアウト事業」や「食品加工業」を志向していますが、この市場も中・長期的には供給過多になり競争が激化するでしょう。

 

逆に、これまでの業態に固執せず、これまで培った「調理技術」「接客」「店舗管理」などのノウハウ(強み)を生かし、例えばですが、海外に活路を見出す、主婦に調理指導を行う調理塾を始める、未利用魚に特化したメニューを開発するなど、新たな事業展開を考える好機かもしれません。

 

また、宿泊業では「テレワーク専用プラン」や「癒しプラン」などを打ち出していますが、これらは皆が気づいていることであり、既に始めていますし、ある意味ブーム的なものかもしれません。

 

一時的に奏功するとは思いますが、次の手、その次の手を事業計画に示しておくことが求められるのではないでしょうか。

 

そう考えますと、ある意味今は仕込みの時期だと思います。

仕込みは、将来的に利益を生む可能性の高い分野で行うべきです。

 

市場調査に裏付けられたデータ等を活かし、実現可能性を踏まえた上での「選択と集中」・・・その実現可能性をいかに高めるかがポイントかもしれませんね。


今日はここまでとさせていただきます。

 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

皆さまのご健康と、ご家族、社員さま、縁するすべての方々のお幸せをお祈りいたします。