トラック運送の原価計算

皆さま、こんにちは、そして、こんばんは。

中小企業診断士の菅野です。

 

最近の原油価格の高騰は、燃料を使用する事業者を直撃していますね。

 

いつまで続くか先行き不透明との見方が多いようですが、燃料を使用しなければ仕事にならないという業種には頭の痛い問題です。

 

そこで今回のテーマは、中小運送事業者の「トラック運送原価計算」についてみていきたいと思います。

 

ぜひ、お付き合いください。


さて、かなり前のデータですが、2016年11月に国土交通省が実施した「トラック運送業における原価計算に関するアンケート」によると、約6割のトラック運送業者が何らかの原価計算を実施しているとしています。

 

また、原価計算を実施している事業者ほど、荷主との契約条件の見直し交渉を行っており、原価計算は荷主との契約交渉に向けた第一歩と位置付けています。

 

よろしければ、下記の事例をご覧ください。出典:原価計算の活用に向けて



◆原価データの推移を示すことで運賃・料金の引上げに成功した事例

《出所:トラック運送の原価計算の活用に向けて(国土交通省)》抜粋、以下同様。

現状 対策 結果

荷主から運賃・料金の引上げには応じてもらえず、他の業務で赤字をカバーしている状況であったが、ドライバー不足に伴い、この運賃水準では継続的な事業が難しい状況であった。

運賃単価、運送ルート別、時間単位、取引先別等の原価計算により採算(運行ルート、契約単位、取引先単位)を把握し、時系列での原価データを示した。

 

物流物流担当部長にコストアップの実態を理解してもらうことを促した。

結果的に17%の引き上げ要請に対して満額の引上げとなった。

 

◆原価計算により赤字路線を抽出し利益確保に成功した事例

現状 対策 結果

荷待ち時間が長時間化してきたことから原価管理を適切に行い、業務の効率化を行う必要性に迫られた。

 

 

原価計算から各車両の1時間当たり固定費、1km当たり変動費の標準原価データを算出し、附帯作業、手待ち時間等に係る時間コストを元請事業者に提示するようにした。

原価計算データを活用し、各運送原価を瞬時に計算できる表計算システムを開発し、1運行ごとの損益を踏まえた対応ができるようになった。

 

◆仕事量ではなく利益率の確保を重視し、ドライバー賃金を向上させた事例

現状 対策 結果

ドライバー確保のために一定の賃金水準を確保する必要があった。そのために赤字の取引先の特定、運賃・料金の見直しを要請する必要があった。

仕事量確保より、利益確保を重視。原価計算を踏まえ赤字の取引先を特定し、運賃・料金の見直しを要請した。

 

取引を解消しても、利益率の高い、他の運送業務を確保できているため、過去3年間でドライバーの賃金を平均10%引き上げることができた。

◆積合せ運送によりトータルでの利益確保が可能になった事例

現状 対策 結果
荷主は原価割れの運賃・料金の水準を一方的に決めてくる場合があるが、利益が出るか否かの判断をするためにも原価計算は必要と考えた。

原価計算データを示し厳しい現状を理解してもらい、積合せ運送により積載率が向上するよう、出発時間や到着時間を柔軟に設定してもらうようにした。

最近では、労務管理に関する規制強化等に伴い荷主責任が追及される時代になっているため、荷主担当者に説明することで運送条件を変えてくれるケースもあった。


いかがでしょうか。

 

賃金アップや燃料高騰等の費用の変化に対応した料金を収受するためには、原価計算が必要になることはご理解頂けたのではないかと思います。

 

ここで簡単に、運送原価計算の実施手順をお示しします。


運送事業に関する損益計算書を作成します。(運送事業のみの場合は会社の決算書が該当)

実運送の売上・費用と傭車(利用運送)の売上・費用等を区分します。

傭車については受注先、発注先別に原価を計算します。

車両に紐付く費用(車両費、保険、運行三費、運転者人件費)を割付けます。紐付かない間接費は一定の基準により車両に配分します。

走行距離や運送時間を踏まえ、車両別に「1kmあたりの変動費」と「1時間あたりの固定費」を算出します。

車両別の原価データを加工して、取引先別、運行ルート別の平均原価を算出します。必要に応じて契約別の計算も行います。

 


上記の計算は、Excelベースで十分です。

 ※元データが管理されていれば、すぐに原価計算データを見直すことができます。

 

さて、原価計算を見直す目的は、大きく2つです。

 

一つ目は、自社の収益改善を進めることです。

 

燃料費の高騰や人件費の上昇は、自社の経営を圧迫します。

このような状況では、仕事量(ボリューム)を増やすことよりも、いかに付加価値を増やすかという点に着目する必要があります。

 

例えば、整備・修理についても、社内で整備・点検を行うなどして、なるべくコストを抑える場合があります。

 

そのためには、現状の問題点を発見し、整理する必要がありますが、原価計算を見直すことで、問題点が浮き彫りになることは少なくありません。

 

二つ目が、外部の協力を得ることです。

 

外部とは、荷主企業や購買先です。

 

取引先別原価計算を進めると利益貢献度がはっきりしますので、中には、限界利益段階で赤字になっているケースがあるかもしれません。

 

そのような場合、精緻な分析に基づく原価計算データを荷主企業に丁寧に説明し、協力を仰ぐことが必要となります。

 

また、購買先、外注先にも説明が必要になる場合もあり、原価計算データは、交渉を進める際の有力なツールとなり得ます。



 

それでは、運送原価計算の概要をみてみましょう。

 

燃料費の計算

・1km当たりの燃料費を計算します。

・平均燃料単価は消費税抜き、 燃費は運行条件等で変動するため年間の平均燃費を採用します。

・その際、計算期間単位ごと、燃料の種類ごとに燃料単価を見直します。

 

 油脂費の計算

・1km当たりの油脂費を計算します。

・消費税抜き、単価が変更になった場合は原価を把握します。

・油脂費はエンジンオイル費のみでブレーキオイル、ミッションオイル等は修理費に含めます。

 

 尿素水費の計算

・1km当たりの尿素水費を計算します(尿素水(アドブルー等)1ℓあたりの走行距離は50~200km程度)。

 

 タイヤチューブ費の計算

・1km当たりのタイヤチューブ費を計算します。

・夏タイヤと冬タイヤを利用する場合、双方の単価の違いを考慮するため、加重平均を算出する場合もあります。

 

 車検整備費、一般修理費の計算

・1km当たりの修理費を計算します。

・修理費は修理費の計上月により変動するため算出方法が異なります。

・修理費がリース料金に含められている場合、車検整備費・一般修理費を定額料金で支払いしている場合についても計算式があります。(こちらをご確認ください)

 

 通行料等の計算

・通行料等の費用とは高速道路利用料、フェリー利用料、駐車場の施設利用料です。

・割引を利用している場合、割引適用後の料金とします。

 

 車両費の計算

・トラック車両を調達した費用を法定耐用年数により費用計上(減価償却)します。

・車両の減価償却の方法は、適正運賃収受のための原価計算では定額法により算出します。

・車両をリースにより調達している場合には、契約内容に基づいて車両費を算出します。

 

 車両の税金の計算

・自動車関連諸税は、課税期間を踏まえて1ヶ月当たりの費用額を算出します。

 

 車両の保険費の計算

・保険費のうち自賠責保険は各車両の支払実績額が明確であるため個別車両に直接割付けます。

・任意保険、運送保険、運送業者賠償責任保険、運送業総合保障保険等を会社単位で契約している場合は車両ごとに割付けできないため、間接費(一般管理費等)に含め、配分基準により各車両に配分します。

 

 運転者人件費の計算

・トラック車両の運転に従事する運転者の人件費及び法定福利、福利厚生費、退職金の全てを含みます。

・運行管理者、役員等の管理者の人件費は一般管理費に分類します。

・運転者人件費を算出する方法は、①毎月の支払い実績、②1時間あたりの運転者人件費×車両稼動時間、③平均月額(年間人件費÷12)の3つがあります。

 

 間接費の計算

・間接費とは車両に直接割付けできないもので、管理業務などに関連する費用です。

・1ヶ月当たりの間接費を算出します。

・消費税抜きの費用に統一して計算します。

・車両ごとへの配分方法は、①全体売上に占める各車両の収受運賃構成比をもとに配分、②車両の稼動時間により配分、③車両台数で割って配分の3つがあります。


 1時間当たりの固定費の計算

・車両別の原価計算結果を踏まえ、1時間当たり固定費を算出駐車場を出てから戻ってくる時間、貨物の積み込み開始から取卸完了までの時間など、自社の実態を踏まえて検討します。

 1時間当たりの固定費 = 車種カテゴリー別固定費合計 ÷ 稼働時間(平均時間)

 

 1kmあたりの変動費の計算

1kmあたりの変動費は、各車両の変動費となる費目を走行距離で割って算出します。

 1km当たりの燃料費      = 燃料単価(円)÷ 燃費(km/L)

 1km当たりの油脂費      = 1回あたりの油脂費 ÷ 交換距離

 1km当たりのタイヤチューブ費 = タイヤチューブ費 ÷ 交換距離

 1km当たりの修理費      = 一般修理+車検整備の各費用 ÷ 対応する走行距離

 1km当たりの尿素水費     = 尿素水費 ÷ 走行可能距離


 運行ルート別の原価計算

・運行ルート別の原価計算は発着地点間の距離と稼動時間を基本に算出します。

 

● 取引先別の原価計算

・車両別の原価計算だけではなく、取引先別の原価を計算し損益を把握することで、適切に対処方策を講じていくことが可能となります。

 

出典:原価計算の活用に向けて



話しは変わりますが、原価計算以外にも、社員の給与や勤務時間、売上の管理など、Excelを使用しているケースが少なくないのではないでしょうか。

 

しかしながら、現場では Excel管理だけでは解決し難い問題も発生しているようです。

 

例えば・・・

 

・売上や経費など、数字データは拠点ごとに行っている。各拠点から集めたデータの統合は手入力で行っているため入力に時間がかかり、リアルタイムで売上状況を把握できない。

 

・車両やドライバーのスケジュール管理や運行計画、運賃の設定は社長の長年の経験と勘によって管理されており、社長が出張などで不在になると業務が滞る。

 

・社員の給与や勤務時間、売上の管理についてExcelを使用しているが、経理担当者によって管理のルールが異なるため、経理の情報、ドライバーの台帳や実績などがわかりづらい。

 

・ドライバーの労働時間の管理は、アナログタコグラフで管理している。記録のデータは紙ベースなので、データの管理や整理に時間と手間がかかってしまう。

 

さて、大手企業では、運送業向け管理システム等を活用し、時間・コストをかけず、現状を瞬時に把握することができると思います。

 

しかしながら、比較的規模の小さい中小運送業では、コスト面からなかなかシステムの導入に踏み切れないケースも少なくないのではないでしょうか。

 

一方で、IT導入補助金を活用してデジタル化を推進している例もあります。

 

IT導入補助金とは、自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助してもらう制度です。

 

自社の業務効率化、付加価値向上を図るため、ITツールの導入を検討されている方は、ぜひご確認ください。IT導入補助金2021


今日はここまでとさせていただきます。

 

最後までお読み下さり、ありがとうございました。