生産性向上と賃金引上げ

皆さま、こんにちは、そして、こんばんは。

中小企業診断士の菅野です。

今日のテーマは、「生産性向上と賃金引上げ」についてです。

ぜひ、お付き合いください。


補助事業を活用しようとすると、一定の要件を満たすことが求められることが少なくありません。

要件は補助事業のタイプによって様々ありますが、ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(令和元年度補正・令和三年度補正))では、以下の基本要件が定められています。

 

【基本要件】 以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画を策定していること。

  1. 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加。(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)
  2. 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする。
  3. 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加。

最近の補助金は、給与支給総額や最低賃金に係る要件が目立つようになっていますが、その背景には何があるのでしょうか。

 

そのひとつとして、人口増加要因による経済成長が期待できない状況下、生産性向上要因を高めることで成長を図るには、生産性と強い相関関係がある「賃金」に目を向けていると言えるかもしれません。

 

様々な議論はあるようですが、企業にとっても、低賃金・低生産性の体質から脱し、時代の変化に対応しつつ生き残りを図る挑戦と捉える方もいるようです。

 

ちなみに、「日本人の勝算」を執筆したデービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社社長)は、その書の中で、以下のことを述べています。

  • 高齢化と人口激減により、今後デフレ圧力が深刻化していくのは疑いない。 
  • デフレ圧力が深刻化する状況下で生き延びるには、生産性を高めるとともに、「高付加価値・高所得経済」への転換が不可欠である。 
  • 日本の生産性は世界第28位と低迷しているが、人材評価では世界で第4位。そのため生産性の伸び代は大きい。 
  • 日本において生産性向上が期待できる経済政策は、最低賃金引き上げである。高齢化と人口激減という難局を乗り切るには、政府による継続的な最低賃金引き上げが必須だ。

また、独立行政法人経済産業研究所森川 正之氏の論文「最低賃金と生産性(2019 年 6 月)」によると、「もともと最低賃金制度は、低賃金労働者の所得保障、経済格差の縮小といった公平性の観点からの制度だが、結果として生産性にも影響する可能性がある。」としています。


話しは変わりますが、日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2021」によると、2020 年度の賃金(現金給与総額指数)は 7 年ぶりに減少しています。

 

同書では、2020 年度に賃金が落ち込んだのは、コロナ禍による社会経済活動の収縮により企業業績が悪化したことに加え、これまでの経緯から企業の賃金支払余力が圧迫されてきたことも影響しているとし、企業が収益性を維持しながらでなければ、今後も持続的に賃上げを行うことは難しいことからすると、労働生産性が落ち込んだ状況を早い段階で脱することが求められるだろうとしています。


さて、補助事業の要件については、今後も最低賃金引き上げや給与支給総額の増加が求められるという見方が少なくないようです。

 

一方で、デジタル枠やグリーン枠など、成長分野への特別枠が強化されていることも見逃せません。

 

Panorama Data Insightsが2021年12月27日に発表した新しいレポートによると、世界のDX(デジタルトランスフォーメーション)市場の売上は、2021年から2030年の予測期間中に年平均成長率(CAGR)23.5%で成長し、2030年には1兆8900億ドルに達すると予測しています。

 

また、ESG投資の統計報告書「Global Sustainable Investment Review(GSIR)」の2020年版統計では、2018年から2020年までの2年間で、世界全体のESG投資額は15.1%増加し、35兆3,010億米ドル(約3,900兆円)と発表しています。

 

地方の中小企業が、容易に進出できる分野ではないかもしれませんが、自社の強みを活かせる事業領域を見つけ、参入機会を模索することはムダではないかもしれません。

 

歴史を紐解くと、時代の変革期は何回も訪れていることがわかりますし、その時々に、どのような決定をし、どのような行動を起こしたかによって、その後の立ち位置が大きく変わったという事例は少なくありません。


話しは変わりますが、事業再構築補助金の審査項目に「全く異なる業種への転換など、リスクの高い、思い切った大胆な事業の再構築を行うものであるか」という文章があります。

 

この一文は、ある意味「事業家魂」を如実に表現できる項目だと思います。

 

しかしながら一方で、市場分析も自社分析も行わずに、また、方向性やビジョンも持たず、具体的なアクションプランも持たずに進むわけにもいきません。

 

なので、補助事業を活用するということは、あるべき姿を実現する事業シナリオを描き、調査あるいはデータ分析で裏付けを取り、実現に向けた計画を立て、不足する経営資源を補うために各種支援施策(補助金等)を使わせて頂き、自社の成長を実現するといった一連のプロセスと考えることができるのではないでしょうか。

 

補助事業の要件については、その時々の経済政策の影響を受けるものと考えると、今後も最低賃金引き上げや給与支給総額の増加が求められるという見方が少なくないようです。

 

このような状況下、付加価値を得るための「収入」を高める方法と、得られた付加価値をどのように「分配」するかという費用配分を明らかにした「損益計画」を組み立てておくことが有効ではないかと思います。

 

また、事業計画策定において、社員のスキルアップ、最先端技術の活用、人手不足への対応といった、生産性向上に係る対応策を講じておくことも見逃せません。

 

今日はここまでとさせて頂きます。

 

最後までお読み下さり、ありがとうございました。