事業再構築補助金の給与支払総額要件について

皆さま、こんにちは、そして、こんばんは。

中小企業診断士の菅野です。

今日のテーマは、「事業再構築補助金の給与支払総額要件について」です。

ぜひ、お付き合いください。


2023年3月30日(木)18時に、事業再構築補助金第10回公募が開始されました。

申請の受付は6月上旬に開始予定で、公募終了は2023年6月30日(金)18:00までとなっています。

 

2022年12月、中小企業庁より「令和4年度第二次補正予算の概要」が発表されました。従来に比べて要件が緩和されるとともに、より大規模な取り組みを支援するための枠が新設されます。

 

これが、今回の10次公募から適用されるわけですが、売上高減少要件の撤廃など前提条件が緩和され、「通常枠」は「成長枠」へと変わっています。

 

補助率は、中小企業者等 1/2 (大規模な賃上げを行う場合は 2/3)、中堅企業等 1/3 (大規模な賃上げを行う場合は 1/2)となっています。

 

この成長枠の要件は以下の通りであり、卒業促進枠、大規模賃金引上促進枠のいずれかに同時に申請することも可能としています。

  1. 事業再構築指針に示す「事業再構築」の定義に該当する事業であること【事業再構築要件】
  2. 事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けていること。補助金額が 3,000 万円を超える案件は認定経営革新等支援機関及び金融機関(金融機関が認定経営革新等支援機関であれば当該金融機関のみでも可)の確認を受けていること【認定支援機関要件】
  3. 補助事業終了後 3~5 年で付加価値額の年率平均 4.0%以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均 4.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること【付加価値額要件】
  4. 取り組む事業が、過去~今後のいずれか 10 年間で、市場規模が 10%以上拡大する業種・業態に属していること【市場拡大要件】
  5. 事業終了後 3~5 年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること【給与総額増加要件】

1~4までクリアしても、給与支払総額を年率平均2%以上増加させることが必要であり、補助率を引き上げたい場合は、補助事業期間内に給与支給総額を年平均 6%以上増加させること、補助事業期間内に事業場内最低賃金を年額 45 円以上の水準で引上げることが要件となっています。

 

給与総額は、給与総支給額とはアルバイトやパートを含む全従業員及び役員に支払った給与等のことです。 福利厚生費や法定福利費、退職金は除くとされており、人件費とは異なります。

 

例えば、年間給与総額1億円の企業であれば、その2%の200万円を給与で増やすわけですから、福利厚生費やその他増加分を考えるとかなり人件費総額が大きくなると思います。

 

当然ながら、損益分岐点売上高が高くなるとともに、労働分配率も大きくなります。

 

労働分配率は、人件費 ÷ 付加価値 × 100 で計算できますので、ここが膨らみ過ぎないためには、いかに付加価値を高められるかということになります。

 

また、人件費について考える際、労働分配率とともに考慮に入れるべきなのが「労働生産性」です。

労働投入量に対してどれほどの付加価値を生み出せているのかを表す指標が労働生産性で、付加価値 ÷ 従業員数で求められます。

 

これをさらに展開しますと、

労働分配率 × 労働生産性 ÷ 100 = (人件費 ÷ 付加価値 × 100) × (付加価値 ÷ 従業員数) ÷ 100

= 人件費 ÷ 従業員数 = 1人あたり人件費

となります。

 

労働分配率や労働生産性を向上できれば、1人あたり人件費がアップして給与額が上がり、優秀な人材を確保しやすくなって生産性が上がる好循環が生まれます。そのため、人件費について考える場合には、労働分配率と労働生産性のいずれにも着目し、その構成要素である「付加価値」に着目することが大切です。

 

一方で注意しなければならないことは、補助金申請時の付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を足したものということです。

 

労働分配率の計算式に出てくる「付加価値」とは、会社が新たに生み出した価値のことです。

計算方法には控除法と加算法の2つの方法がありますが、中小企業の場合、簡便な計算式を用いる控除法(中小企業庁方式とも呼ばれる)、付加価値 = 売上高 – 外部購入価額 を使用することが多いです。

 

 

例えば、年間の売上高が400百万円、原材料費や外注費が200百万円だった場合、付加価値の額としては、200百万円(400百万円-200百万円)ということになります。

 

この200百万円の付加価値を、どこにどう配分するか、例えば、社員配分(人件費)、再生産配分(減価償却費)、経費配分(一般経費)、金融配分(支払利息等)、社会配分(税金)等を考え、計画、実行していくことがポイントです。

 

したがって、補助事業で用いる「付加価値」と、実務上の「付加価値」の違いを理解した上で、付加価値向上策の検討と、得られた付加価値の適正な配分計画を立て、その結果として、人件費総額があがっていくというシナリオ作成が必要になってくるでしょう。

 

現在、人件費の増加は、社会的な要請となっているといっても過言ではなく、その要請に応えるためには、成長市場に機会を見つけ、その市場を選択して経営資源を集中させ、自社の強みを活かしながら、新たな成長を遂げることが求められているのだと思います。

 

人件費総額を上げるということは、達成困難なものの思えるかもしれません。しかしながら、それを実現している企業があることも確かです。

 

顧客体験価値を加えて客単価があがった飲食店、製品に新たな価値を加えて客層が変わった小売店、業務効率化をすることで従業員1人あたりが生み出す付加価値を最大化させた製造業など、枚挙にいとまがありません。

 

人件費総額を上げるということは、既存事業の延長線上で捉えると厳しいものかもしれませんが、付加価値を向上させることで達成できるかどうか確認し、できると判断したら新たな成長のために「進む」、できないと判断したら「やめる」のいずれかかもしれません。

 

事業再構築補助事業の公募要領の「事業の目的」には、

「新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。」

とあります。

 

この目的に添う「事業シナリオ」を持っており、かつ、「実現する」ためには設備投資が必要であり、事業を軌道に乗せることで「付加価値」が向上し、その結果、「人件費総額」に配分できる額が大きくなるといったイメージでしょうか。

 

 

今日はここまでとさせて頂きます。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。