はじめに:「人間力 経営」の本質を見つめなおす
「人間力 経営」。この言葉を聞いて、どれだけの人がその中身を具体的に語れるでしょうか。
私は60歳を過ぎた今、ビジネスマンとしても、父親としても、数えきれない失敗を経験してきました。会社ではうまく人を活かせず、家庭では子どもとの距離を縮められず、何度も後悔に襲われてきました。
けれども、それでも私が語りたいのは、失敗を繰り返す中でようやく見えてきた「人としての在り方」、すなわち人間力の本質です。
泥臭い子育てと“うまくいかない現実”から始まる
子どもが生まれたばかりの頃は、すべてが愛おしく感じられました。泣いても、ぐずっても、ただ「生きていてくれる」ことに感謝していました。
しかし、それは長くは続きません。
小学校高学年から中学生になるころ、子どもは親の言うことを聞かなくなります。反抗される、冷たくされる。そういう時期だと知りながらも、深い戸惑いに襲われたことを今でも覚えています。
うまくいかない。思い通りにならない。感情的になって怒鳴ってしまい、あとで布団の中でもんもんとする──それが現実の子育てかもしれません。
経営もまた、理屈では割り切れない「人間の営み」
経営も、まったく同じではないかと思います。
若いころ、何度かリーダーを経験しました。
そのころは「メンバーを指導し、教育し、数字を出させる」のがリーダーの仕事だと信じていました。しかし、現実はそう甘くありませんでした。
メンバーが思うように動かない、何もかもうまくいかない、あげくのはてに無視される──そのたびに落ち込み、眠れない夜を過ごしました。
会社とは「人の集まり」であり、「感情の交差点」です。そこにはマニュアルも答えもありませんでした。
正しさよりも、「向き合い方」が人間力を育てる
子育ても経営も、理屈だけではうまくいかないのです。
むしろ、どれだけ“向き合ったか”がすべてだと今では思います。
- 子どもの目線にどれだけ立てたか
- メンバーの本音にどれだけ耳を傾けられたか
- 言い訳せず、受け止めようと努力したか
これらはすべて、「人間力」の要素です。
「こんなもんだ」と割り切ることで育つ“耐性”と、その代償
ビジネス社会で様々な経験を積んでいくと、心も自然と“耐性”を身につけていきます。メンバーに反発されても、「まあ、こんなもんだ」と割り切るようになります。
ところが、それを見た社員から「リーダーは冷たい」「人間味がない」と言われることもあります。
そのとき、何とも思わないリーダーと、心を痛めるリーダーがいます。
社員から“冷たい”と見えるのは、たいてい「割り切り」が“感情の麻痺”になってしまったときです。表面では毅然としていても、そこに人間味がなければ、メンバーは「この人には何を言っても届かない」と感じてしまいます。
私は、過去は前者でした。
メンバーが辞めても、トラブルが起きても、「リーダーなんだから仕方ない」「こんなもんだ」と、どこか心の奥で割り切っていました。
感情にふたをして、傷つかないように自分を守っていたのだと思います。
けれども、そうやって“割り切って”ばかりいたある日、鉄槌が下ります。
・・・正しい判断をしているつもりだった。でも、人としては間違っていたかもしれない。
そのとき初めて、私は「本当の人間力とは何か」を考えるようになったのです。
人間力を高めるためにできる3つのこと
では、どうすれば人間力を高められるのでしょうか。方法論ではありませんが、私の経験からヒントになることを3つ挙げます。
1.「耳の痛い話」にこそ耳を傾ける
自分を否定されたと感じる場面は成長のチャンスです。メンバーや家族の「本音」に耳を閉ざさないことが、自らを省みる第一歩です。
2.「失敗」を恥じず、語る
リーダーが完璧である必要はありません。むしろ、失敗を正直に語れることが、組織に信頼と安心をもたらします。
3.「問い」を持ち続ける
すぐに答えを出さず、自分に問いかける姿勢が、人間としての深さを育てます。哲学や文学など、知との出会いも、豊かな内面を育ててくれます。
おわりに:「人間力」は磨くもの、そして受け継がれるもの
会社を牽引するリーダーに必要なのは、戦略だけではなく、「人としての在り方」です。人間力は、子育てにも経営にも通じる、「人生の要」ともいえる力です。
これからの時代、AIやテクノロジーがどれほど発達しても、「人間力」だけは置き換えられません。だからこそ、若いリーダーたちには、スキルよりも「人としての深さ」に目を向けてほしいと願います。