1995年(平成7年)に中小企業診断士の資格を取得し、中小企業診断士事務所を設立して30年が経ちました。
この間、いろいろなことを経験させて頂きましたが、その中で、中小企業診断士の社会的使命・役割をしっかり果たしてきたのだろうか?と自問自答させられる場面も少なくありません。
30年の節目に当たり、いま一度原点に立ち返り、中小企業診断士の社会的使命について、再考したいと思います。
1.中小企業診断士の社会的使命とは?
中小企業診断士は、企業の売上向上や利益改善を支援します。
支援先企業が実際に ”変革” して ”成果” を得ることができるよう、中小企業経営者に寄り添う「伴走者」としての役割が求められています。
さらに、国家資格としての公共的な立場を活かし、地域経済全体の持続可能な発展を視野に入れることが求められます。
中小企業は日本全体の企業数の99.7%を占め、地域の雇用・経済・暮らしを支える重要な存在です。
診断士は、その経営者の孤独を理解し、寄り添い、時には厳しい判断を促すことも含めて「社会のために何が正しいか」を一緒に考える存在であるべきだと考えます。
2.経営者の孤独に寄り添う「伴走者」としての診断士
中小企業の経営者は、日々多くの意思決定を迫られ、常にプレッシャーの中で経営を続けています。
社員の雇用、取引先との関係、地域との連携など、判断を誤れば事業の継続すら危ぶまれる状況も少なくありません。
そんな中で、中小企業診断士は「経営者の孤独に寄り添う存在」であり、共に考え、悩み、進むべき道を照らす伴走者です。
実際に求められる診断士の支援内容
経営戦略の再構築支援
→ 環境変化に適応した中長期ビジョンの策定をサポート
資金繰りや補助金申請の助言
→ 財務状況の整理と活用可能な支援制度の提案
従業員との関係構築支援
→ 組織風土や人材育成方針の見直しを共に行う
こうした支援は、単なるアドバイスに留まらず、経営者が一歩を踏み出すための「心理的な支柱」にもなっています。
3.公共的な立場としての責任と覚悟
中小企業診断士は、「国家資格者」として公共性を持つ専門家です。
したがって、企業の短期的な利益や経営者個人の希望だけに寄り添うことは、本質的な使命とはいえません。
公共性を重視すべき理由
- 地域社会全体の持続可能性に関与する立場だから
- 労働者やその家族の生活を守る視点を持つべきだから
- 業界全体の健全な発展を意識すべきだから
ときには、経営者が望む投資や新規事業に「待った」をかける場面もあります。
また、従業員の待遇や職場環境の改善を優先するために、経営方針の見直しを促す必要もあります。
これは厳しい判断ですが、「社会全体の利益」と「企業の持続可能性」を両立させるための重要な視点です。
4.「やめるべき投資」を促す勇気もまた支援の一環
経営支援の中では、「攻め」の提案よりも「引くべき」判断を下す場面の方が重要な場合もあります。
特に近年は、人口減少・高齢化・エネルギーコストの上昇など、外部環境の不確実性が高まっています。
診断士が「止めるべき」判断を助言する場面の例
無理な新規事業への多額投資
→ 回収見込みが低い計画を断念し、既存事業の強化に注力
人員を大幅に増やす採用計画
→ 資金繰りや人材定着率を踏まえて再検討
自社ビル建設・新設備の導入
→ 設備投資のROI(投資対効果)を冷静に分析
このような提案は、経営者にとって耳の痛い話かもしれません。
しかし、それでもあえて伝えるのが診断士の「公共性ある支援者」としての矜持です。
5.中小企業に求められる「持続可能性」を支える
持続可能な経営とは、目先の利益を追うだけではなく、「人」「地域」「社会」との共存を前提とした事業運営のことです。
診断士は、以下のような観点から持続可能性を支援します。
- 地域資源の活用:地場産業との連携・地元人材の活用
- 従業員の働きがい:人材の定着・多様性の受け入れ
- 経営の透明性:意思決定の妥当性・情報開示の強化
これらはすべて、「企業の社会的責任(CSR)」や「サステナビリティ経営」とも直結します。
診断士の支援は、企業の根幹から整える包括的なサポートとなるのです。
まとめ|中小企業診断士の本質
中小企業診断士の真の価値は、単なる「売上を伸ばすアドバイザー」ではなく、社会の中で企業が果たすべき役割を一緒に考える “共創者” であることです。
経営者の心情に寄り添いながら、
地域・従業員・社会への影響を見据えて、
本当に企業にとって、そして社会にとって正しい意思決定を導く
これこそが、診断士に求められる「社会的使命」ではないかと思います。